●文化庁が117億円かけてアニメの殿堂建設に関して(2009/04/30)

 4月9日付けの夕刊1面トップで朝日は紹介していましたが、それを受けて、読者投稿欄「声」には、次のような投書が掲載されていました。

●4月19日付け 「アニメの殿堂より業界助けて」 (通信販売業 男・44歳)
 ――(略)アニメのヒット作はいまだにほんの一握りで、大半が赤字です。制作費は安く、そのしわ寄せが制作会社の下請けいじめやアニメーターの低い人件費にはね返っています。
 現に徹夜続きで仕事しても生活できずにやめた知人が何人もいるし、アニメの専門学校を出た人も待遇面でゲーム業界に流れる人が大半です。
 テレビのゴールデンタイムに放送されるものも減りつつあり、作品内容もライトノベルやゲーム原作のもの、あるいはマニア向けの美少女やボーイズラブものなどがほとんどで、新たな冒険を試みる作品は皆無です。このままではアニメ文化そのものが過去の遺物になるでしょう。
 文化庁は殿堂設立に予算117億円を盛り込んだそうです。それだけあれば良質な作品がたくさんできます。国は箱物を作るより、業界が新たな作品に挑戦できる環境の整備と、担い手の育成に、ぜひ予算を割いていただきたい。
●4月24日付け 「アニメ制作現場は過酷です」(アニメーター 女・50歳)
 私はフリーのアニメーターです。19日の投稿のような、アニメ業界の悲惨さについて理解していただける方がいらっしゃることに感謝します。
 アニメーターは「ワーキングプア」です。才能があり技術やセンスがあっても、単価が非常に安いので長時間労働をしても収入が少ないのです。
 専門学校を出た若い人たちが、食べていけないという理由だけで辞めていきます。結婚し子供を育てている人は少数派です。貧乏だからです。見る人に夢を与えるアニメを作っているアニメーターが、夢も希望も持てないのです。
 私も去年から今年にかけて、テレビ局の制作費切りつめなどで取引先が2社、倒産し、予定していた入金がありません。辞めていった仲間の就職先も心配です。
 現場で頑張っているアニメーターが、生活の心配をせず、絵を描くことに没頭できる環境がないと若い人が育たず、この先、アニメ文化の衰退につながるのでは、と心配です。

―― 制作現場の「二重構造」、「三重構造」です。何やら小林多喜二の『蟹工船』の様相です。こうした大きな括りでいうところの芸術的創造活動というのは、人間が生きていく上で、ある意味リアリティから乖離した霞のような創造の産物で、腹の足しになるものではありませんが、どういう訳かたくさんの人を引きつける魔力のようなものを持っています。簡単に言ってしまえば、飯が食えないのなら食える道を探した方がいいのですが、行政も業界もアナーキーになれない。
 箱物で金を掛けるのが一番手っ取り早く簡単ということなのでしょう。中のいわゆるソフトは後からくっつけて行けばいいというのが役人の発想でしょう。

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国立公文書館「パブリック・アーカイブズ・ビジョン」(2009/05/01)

 文化庁アニメの殿堂」設置の続き――

 もうひとつの視点として「アーカイブズ」(アナログ・アーカイブズ、デジタル・アーカイブズの二つの概念を含んだ意味で)があります。記事内容からは「箱物行政」、グッズ販売といった「打ち上げ花火」的な発想しか見えてきませんが、系統だてた資料整理と管理、さらには公開(閲覧)というしっかりしたものを作りあげていくことができるならば、まだ、悲観的になる必要はないのかと思います。しかし、行政というのは“猫の目”ですから……。
 このあたりは、同じ文化庁所管という点から、2009年4月25日、26日の二日間、学習院大学で開催された日本アーカイブズ学会での国立公文書館館長・菊池光興の基調講演が参考になるかも知れません。この菊池という人物は総務省事務次官経験者で、退職後に福田康夫元首相の「公文書管理法」制定に向けた布陣として同館館長に就任したという経緯があるようですが、「パブリック・アーカイブズビジョン」というのを打ち上げています。講演は内容は、ほぼ、国立公文書館のウェブサイトにアップされているものと同じでした。

http://www.archives.go.jp/about/idea.html 

 「公文書管理法」は、今の国会で審議されているとのことでしたが、成立するかどうかは、政局がらみで不確定のようです。このようなことを言い出すと、それこそ民間で趣味レベルで蒐集保存している様々なものが、アーカイブズの対象ということになるのかも知れません。専門職としてのアーキビストの法制化については、先送りされたようです。国家資格とするのか、あるいは民間レベルでの資格対応でいいのか、論議が尽くされていないというのが理由のようです。

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