●大学の“無意味化”現象

*昨年の下書きからアップ*
「学ぶ」とは「生きるための方法論の確立」にあるのだろうが、大学という場はもはやそれに応えるだけの能力を持っていないのではないかと、そうした場に身をおきながら感じている。
 某私大ゆかりの人物の足跡をまとめることに関連した仕事を手伝う中で(途中、編集方針の大幅な変更で、作業は中断しているが)、制作チームのメンバーで長年、その私大の広報印刷物の制作をしてきているプロダクションの代表が、"大学の先生たちもこれまでとはかなり違って、学生募集に対する危機感を募らせている"、というような感想を漏らしていた。
 2009年7月31日付け朝日新聞一面トップには、そうした話を裏付けるような記事がでていた。この記事から見えてくるのは、大学の果たす役割が急速にリアリティを失っているということだ。
「“能書き”よりも生きるために食べる米の方が重要」という視点に立てば、明治、大正、昭和の頃の子だくさん、尋常高等小学校を出たら、すぐに労働力として幼い弟妹の子守を任せられ、あるいは職人としての丁稚奉公のために家を出される、あるいは、継ぐべき生業のある者は、実践に早くつく、そうしたことがごく当たり前だった時代を私たちは経験して来ていることに気付く。その時代に高等教育を受けるのは金のある人間、つまり食うことに困らない人間であった。
 しかし、戦後、民主主義という思想が占領軍によってもたらされ、教育を受けることでより高度で効率的な生き方の方法を獲得できることを学びはじめる。そして、食うことに困らなくなってくると、つまり生活が物質的に豊かになるにつれて大学の大衆化がはじまる。池田勇人の「所得倍増計画」にのり、アメリカに追いつけ追い越せという気概を持って日本全体が働くことに意味を見出し、次第に時代の空気が一億総中流意識に包まれる。高等学校卒は当たり前になり、中学卒で仕事に就くのは”金の卵”ともてはやされる。その頃から大学への進学率が高くなり、そのニーズに応えるように大学の新設も相次ぐ。バブル期には“いけいけどんどん”の空気が支配していたから、子どもを大学に進学させる経済的な負担がそれほど重荷とはならなかった。教育にかけた金は、“費用対効果”から元は取れるという安心感があったのである。
 しかし、バブルがはじけ、構造改革規制緩和路線に政治の舵が切られると、またもや、戦前の“貧困の時代”と同じような“時代の空気”になってしまったのである。小林多喜二の『蟹工船』が書店に平積みされ、大学を出たところで“出資”した資金の回収も覚束ないような閉塞感に満ちているのだ。こうした時代に大学が果たすべきことは何なのか。

親の年収が大学進学率左右 200万円未満は28%
2009年7月31日5時1分
 年収200万円未満の家庭の高校生の4年制大学進学率は3割に満たず、一方で1200万円以上の家庭では倍以上の6割強に――。東京大学の大学経営・政策研究センターが調査したところ、保護者の収入が多くなるほど右肩上がりに大学進学率が高くなることが確認された。国公立大では所得による差はあまりないが、私立大への進学で大きな差がついていた。
 子どもの受ける教育や進学率が、親の所得差によって影響され、「教育格差」につながっているとして社会問題化している。調査は、こうした実態を探るためで、05年度に全国の高校3年生約4千人を抽出して3年間追跡した。保護者から聞き取った年収を200万円未満から1200万円以上まで七つに区分し、進路との関係をみた。
 それによると、最も低い200万円未満の層の4年制大学への進学率は28.2%。600万円以上800万円未満は49.4%、800万円以上1千万円未満は54.8%、1200万円以上だと62.8%に至った。
 進学先をみると、国公立大は年収600万円未満はどの層も10%強、1200万円以上でも12%強と大きな差はない。他方、私大進学の差は顕著で、200万円未満は17.6%、600万円以上800万円未満は36.8%。1200万円以上では50.5%で、200万円未満の2.9倍になった。
 国立大の年間授業料は平均約54万円、私立大は同約85万円。大学は「全入時代」を迎えたとされるが、所得が低い家庭では、国公立大以外に行きづらい様子がうかがえる。センター長の金子元久教授(高等教育論)は「このままでは大学教育を受けられる人が所得の階層で固定化してしまう。進学したくてもできない人を支援するセーフティーネットの政策をつくる必要がある」と指摘している。
 一方、就職率は進学率の傾向と表裏の関係になっている。200万円未満の層は35.9%だったが、年収が高くなるほど率は低くなり、1200万円以上では5.4%だった。
 文部科学省の調査では、06年春の高卒者の4年制大学への進学率は45.4%。総務省の家計調査では、同年の勤労世帯の平均年収は約630万円だった。(編集委員・山上浩二郎)

http://www.asahi.com/national/update/0730/TKY200907300473.html

 この記事が参考にしたと思える東京大学の大学経営・政策研究センターの元データは下記のサイトに。
 http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crump090731.pdf