●創造とは模倣?それとも“盗作”

 人間の創造的活動の基本は「模倣」にあることは間違いがない。しかし、それが一個の人間の、あるいはその人間が属するグループの“オリジナル”に化けてしまうことがある。電通といういわゆる世界を代表する創造集団がそれをやってしまったのだから話題性はある。
 確かアリストテレスが、芸術活動とは“ミメーシス=模倣”であると言っていた。その流れを汲んで、19世紀のガブリエル・タルド(Jean‐Gabriel de Tarde)が考察した「模倣の法則」は、いうなれば人間の独創性こそ価値あるものという考えの優位性からか、学問の世界ではあまり高い評価を受けずにいた。<横山滋さんの『模倣の社会学』(丸善ライブラリー)は、そのタルドの考察に注目した解説書として秀逸だ。>
 しかしである。今の世界を見れば“コピー&ペースト”が溢れかえっている。何が、この「雪だるま」の問題なのだろうか?全く“瓜二つ”だったから問題なのだろうか、あるいは、他人の褌で相撲を取って名誉なり金銭的対価なりを得ようとしたことが卑怯なのだろうか。確かこの電通北海道の臼井栄三さんという方は、創造的活動の分野では名の知れ渡る人物だったと私は記憶しているが……。
 「著作権」という考え方は、産業革命後に生れてきた概念と聞き及ぶ。それはつまり先進国が発展途上国、当時の植民地に縛りをかけるために考えだされたことで、「知恵」を共有しよう、つまり人類共通の財産、インフラとして、活用して行こうといった考えのかけらもない権利ということだ。今、インターネットが地球を“村”化しているが、そこにも「知財権」という概念を生み出し、デジタルディバイドを増幅させている。
 かく言う私も、“持てる者”の側にあってこうした備忘録を書いているわけだが、“持たざる者”にとってその存在を知りえなければ、意味を持つことはない。「我々は豊にならんがために貧しくなった」というヘルダーリンの詩を受けたハイデガーの哲学的思考があるが*1、はてさて、「雪だるま」ごときに騒ぎ立てることなど、それこそ無意味なのかも知れない。

雪まつりポスター盗用疑惑 米出版物に酷似 電通北海道「触発されアレンジ」 (07/10 22:19、07/11 17:13 更新)
米雑誌の写真に類似していた「第61回さっぽろ雪まつり」の宣伝用ポスター
 電通北海道(札幌)が作製した来年2月開催の「第61回さっぽろ雪まつり」の宣伝ポスターが、米国の出版物中の写真作品と酷似していることが分かり、札幌市などでつくる実行委員会は10日、使用を取りやめ、8月末までに再選定を行うと発表した。再選定と第62回分の選定では同社を除外することも決めた。
 ポスターは両手に小さな雪だるまをのせた図柄。6月1日のコンペで21作品の中から選定され、19日に実行委が公表した。公表後、市民から実行委に「米国の本の作品とそっくりだ」と指摘する電話があり、実行委が電通北海道に確認を求めた。
 同社は実行委に対し、担当のアートディレクターが本の写真に触発されアレンジして作品にしたが、使用についての了解など手続きを得ていなかったとし、市に陳謝し採用を辞退した。
 10日記者会見した電通北海道の臼井栄三取締役は「実行委に迷惑を掛け申し訳なかった」と謝罪した。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/176569_all.html

雪まつりポスターそっくり 決定取り消し
2009年07月11日
■米国の本 掲載写真 実行委、決定取り消し
 電通北海道が制作し、企画コンペで当選した来年2月の「第61回さっぽろ雪まつり」のポスターが米国の本にある写真と酷似していることがわかり、さっぽろ雪まつり実行委員会は10日、「企画提出時に著作物の使用について適切な対応がとられていない」などとして、ポスターの決定を取り消した。さらに同実行委は同社に対し1年間、入札禁止の措置をとった。
 実行委事務局のある札幌市によると、ポスターのコンペには10社から計21点の応募があり、電通北海道の作品を選定。先月19日にポスターを発表した。ところが、その5日後に市民から「米国の実業家マーサ・スチュワートの本に載っている写真にそっくり」という電話があった。市が調べたところ、マーサ・スチュワートの本の中に、ポスターデザインと酷似している写真があることが分かった。
 同市によると、電通北海道側は実行委に「この本に触発されてアレンジしたが、著作物の使用に関して適切な対応がとられていないものが提出された」などと陳謝。このため、選定を取り消した。7月中旬に再度コンペを行い、8月末までに作品を決定する。
 実行委の藤田恒郎会長は「このような事態になったことは極めて残念」とコメント。電通北海道の臼井栄三取締役は「40代のアートディレクターがこの本を所持し、写真に触発された。このディレクターは応募時は著作権に触れるとの認識はなかった」としている。

http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000000907110003

*1:参考:『貧しさ』M・ハイデガー/P・ラクー=ラバルト 西山達也=訳・解題 藤原書店2007年4月30日初版第1刷