●「時代閉塞の現状」に蠢く宗教

 ごくごく最近では「オウム真理教」が大きな問題を起したが、今のような「時代閉塞の現状」にあっては、“宗教”という精神的な癒しに人々は解決の道を求めるもののようだ。これまではあまり表だった行動を起してこなかった「幸福の科学」が、政治の世界に足を踏み込んだのも、同じような思いを集団を構成する“信者”たちの心の中に読み取ったからなのだろうと推測する。
 歴史的に見ても「オウム真理教」や「幸福の科学」と同様の動きがあった。群雄割拠の戦国時代、新たな救いを求めた法然親鸞浄土真宗、あるいは、日本の行く末のために強烈な個性をむき出しに折伏していった日蓮の教えも、当時にあっては“新興宗教”であった。
 ごく近年では、戦争への道をまっしぐらに進みはじめる昭和12年の「死のう団」事件というのがある。保坂正康さんが書いた『 死なう団事件―軍国主義下のカルト教団』 (2000/09/01・角川書店文庫)を読むと、当時の時代閉塞の現状が浮かび上がって来るのだが、今日の社会状況が、そうした時代と同じような雰囲気に満ちていることは間違いない。
 社会の足元を支える底の部分が抜け落ちてしまった今、私たちはやはり奈落に向かって落ち始めているのだろうか……。ちなみに、この「幸福実現党」、先般の東京都議選にも立候補者を立てたが、結局は「泡沫候補」にしか過ぎなかった。間じかに迫った総選挙では、どのような結果を得るのか。「総合情報誌FACTA online」サイトには以下のような記事が――
 

幸福の科学」が新党を旗揚げ 総選挙に参戦
2009年6月号 [ポリティクス・インサイド

・写真は『幸福実現党宣言』の表紙と大川隆法総裁 キャプション:単行本でも発売予定

 宗教法人幸福の科学」が新党を結成する。その名も「幸福実現党」。5月下旬にも記者会見を行う予定だ。幸福の科学は、先の千葉県知事選で森田健作現知事を応援するなど「シンパ候補」の支援活動を展開してきた。今回の新党結党は、4月30日に東京・五反田の教団総合本部で大川隆法総裁が行った法話が発端。その中で総裁は「これまで教団の政治活動は間接的だったが、これからは一定の政治的勢力にならねばならない」「仏国土、地上ユートピアの建設をめざす以上、陰で糸を引いているように言われるべきではない」「今の政党は国民の付託に応えていない。新党は波風を起こすだろうが、教団が政策提言を行っている以上、結果にも責任を持たねばならない」「マルクスの『共産党宣言』を超える『幸福実現党宣言』を、世に問う時が来た」などと決意を語った。この法話は DVDに収録され、全国の教団支部で上映されたという。さらに、5月10日に東京・日比谷公会堂で開かれた大川総裁の青年向け講演会の中に、「『幸福実現党』結党宣言」のプログラムが組み込まれた。当日、壇上に直道(じきどう)党首が登場し、結党宣言を行うとともに佐藤直史幹事長ら5人の党役員を紹介。約 2千人の若手会員に新党への参加と支援を呼びかけた。
 注目すべきは大川総裁が新党結党を「三国志的に言えば第三極」と位置づけ、「現在、宗教政党公明党だけだが、その排他性から、国会は創価学会vs 立正佼成会など新宗連の不毛な宗教界代理戦争の場になっている」「我々は信者を核とするが仏法真理を信奉する人たちの勢力を結集し、開かれた政党をめざす」と主張している点だ。佐藤幹事長は元創価学会青年部長という経歴の持ち主であり、今後、創価学会勢力との衝突が避けられそうにない。
 饗庭党首は42歳、慶応大学法学部卒のいわゆるイケメンで演説も巧みだ。他の党役員も教団職員ながら、前職は松下電器野村証券勤務などエリート揃い。既存政党の支持層からこぼれ落ちた高齢者や主婦・若年層への浸透を狙う戦略のようだ。果たして衆院選議席を確保できるだろうか。

http://facta.co.jp/article/200906013.html

 一方では、新興宗教として社会からなかなか認知されることのなかった「浄土真宗」や「日蓮宗」、あるいは武士の社会に徐々に受け入れられていった「曹洞宗」「臨済宗」は、いまやエスタブリッシュメントとして日本の社会構造の中に組み込まれ、それぞれの宗祖の掲げた思いは既に遠くの彼方に、ただただ「葬式仏教」としての機能を果たすのみなのも歴史の皮肉ということなのか。格差社会、貧困をなくそうと叫ばれる中で、宗教者の立場から雇いぎれの労働者救済の行動を起こしたのは、知る限りでは札幌の西本願寺系のお寺だけだった。ひょっとするとマスメディアには取り上げられることのない、地道な活動をしているところは他にもたくさんあるのだろうとは思うのだが、結局は、宗教とて金の多寡によってしかその存在意義がなくなってしまったというわけだ。そして、この時代閉塞の現状は、ますます硬化の度合いを増し、にっちもさっちも行かなくなっている。